
「採用にYouTubeが効く」とは聞くものの、自社のような堅い業界・大きな組織で本当に成果が出るのか——採用や人事、広報の現場ではこの疑問が拭えないはずです。会社紹介の動画を作って公開したのに数百回しか再生されず、費用だけがかかって終わった、という話も珍しくありません。
一方で、YouTubeをきっかけに採用エントリーを前年の約2.3倍、倍率926倍まで押し上げた上場企業が実在します。アパレル業界史上最年少で東証グロースに上場した株式会社yutoriです。本記事では、このyutoriの公式採用チャンネル「ゆとらない日々 アパレル企業の裏側」を実データで分解し、上場企業・大企業が「採用目的」でYouTubeに参入する場合の設計図を、失敗回避・内製と外注の判断・上場企業特有のリスクまで含めて解説します。
「事例を名前だけ並べた記事」ではなく、再生数やエントリー数といった数字から「なぜ伸びたのか」を構造化し、自社にどう翻訳すればよいかまで落とし込むのが本記事の狙いです。

YouTube採用とは、企業がYouTube上で動画を発信し、採用候補者の認知・興味・応募までを後押しする採用広報の手法です。会社説明会の代替、社員インタビュー、職場密着、選考の舞台裏など、求人票やテキストでは伝わらない「働く実態」を映像で届けられる点が最大の特徴です。
採用市場は売り手優位が続き、求人媒体に出稿するだけでは候補者の目に留まりにくくなっています。とくに新卒・第二新卒の母集団形成では、企業側から「会社の素顔」を発信して見つけてもらう、いわゆる攻めの採用広報が欠かせません。その有力な受け皿がYouTubeです。注目される背景には、3つの構造的な変化があります。
求人媒体の情報はどの企業も似通い、テキストと写真だけでは差別化が難しくなっています。とくに20代の候補者は、応募前に「どんな人が働いているのか」「自分がそこにいる姿を想像できるか」を重視します。動画は職場の空気・社員の人柄・仕事のリアルを一度に伝えられるため、応募の意思決定に直結しやすいのです。
求人広告は掲載期間が終われば消えますが、YouTube動画は公開後も検索・関連動画・レコメンドから流入し続ける「ストック型の資産」になります。会社説明会のように毎回コストをかけなくても、候補者が好きなタイミングで何度でも見返せます。地理的に出会えなかった層にも接点を持てるため、地方や海外の人材にもリーチできます。
選考前に仕事のリアルや厳しさまで見せておくと、入社後のギャップが減り、早期離職の抑制につながります。採用は「母集団を増やす」だけでなく「合う人に出会う」ことが重要であり、動画はカルチャーマッチの精度を上げる装置にもなります。採用単価(一人あたり採用コスト)の削減という観点でも、資産型のYouTubeは中長期で効いてきます。
ここで重要なのは、YouTube採用の成功は「登録者数」では測れないという点です。本記事の主役であるyutoriのチャンネルも、登録者は約2万人で頭打ちに見えますが、採用成果は桁違いに出ています。なぜそんなことが起きるのか、実データで見ていきましょう。

株式会社yutoriは2023年12月にアパレル業界史上最年少で東証グロース市場に上場し、その3日後に公式YouTube「ゆとらない日々 アパレル企業の裏側」を開設しました。狙いは最初から「採用」です。

▲ 公式チャンネル「ゆとらない日々 アパレル企業の裏側」。登録者は約2万人だが、社員密着・採用企画の動画が並ぶ(出典:YouTube)
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 登録者 | 約20,800人(直近30日ほぼ横ばい) |
| 総再生数 | 約264万回 |
| 投稿本数 | 285本(ショート多数) |
| 開設 | 2023年12月(上場と同時) |
| 採用エントリー | 約1,000件 → 2,291件(約2.3倍) |
| 採用倍率 | 926倍 |
| 新卒採用 | 応募200名・倍率200倍 |
注目すべきは、登録者が約2万人で横ばいなのに、採用エントリーは2.3倍に達した点です。再生数は毎月およそ2万回ずつ積み上がっています。つまりこのチャンネルは「登録者を稼ぐメディア」ではなく、「会社のファンを育て、採用ページへ送客する装置」として機能しています。
データを見ると、公開24時間の再生中央値は約3,300回ですが、28日後には中央値1.1万回、当たれば10万回まで伸びます。初動で爆発する“バズ型”ではなく、検索・関連動画・ショートからの流入で時間をかけて積み上がる“資産型”です。これは「一発のバズ頼み」ではなく「仕組みで底上げする」構造であり、後発の企業でも再現しやすいことを意味します。
実際に伸びた動画を見ると、最も再生されたのは「【メンヘラ社長?!】最年少上場 ゆとりくんの素顔」(約21万回)でした。次いでオーディション企画、社長と副社長の密着、新卒採用の最終面接密着が続きます。ここから勝ちパターンを5層に分解できます。

▲ 実際に“伸びた”動画TOP6。社長・社員の人間ドラマと採用企画が上位を占める(出典:YouTube/数値は分析時点の再生数)
これらを1つの式にまとめると、次のようになります。
「最年少上場(権威)」×「社長・社員の本音(ギャップ)」×「採用のプロセス連載」×「密着フォーマット固定」×「ショート量産+採用LP送客」= 採用エントリー2.3倍
重要なのは、このどれか1つでも欠けると「ただの綺麗な会社紹介動画」になり、再生もエントリーも伸びないということです。yutoriが効いた最大の理由は、評価会議の激詰めや選考の落選まで見せる「リアル」が、候補者の自己投影を生んだことにあります。
ここで上場企業・大企業が必ず意識すべき注意点があります。yutoriは「①SNS出身のカリスマ社長 ②平均年齢23.8歳という若い組織 ③ファッションという“絵になる”商材」という3つの特殊条件で勝っています。B2B・製造業・堅い業界・40〜50代が中心の組織が、同じ密着フォーマットをそのまま実行しても刺さりません。必要なのは「方程式を自社の素材に翻訳すること」です。その具体策を次章以降で解説します。
実例を踏まえると、規模の大きい企業ほど陥りやすい失敗パターンがあります。
予算がある大企業ほど、ドローン空撮やナレーション入りのコーポレートPVを作りがちです。しかし制度紹介・福利厚生・社長挨拶は、YouTube上で最も再生されないコンテンツです。候補者が知りたいのは「立派さ」ではなく「自分に近い人がどう働き、何に悩み、どう乗り越えているか」という人間ドラマです。主役は会社ではなく、現場で葛藤する一人の社員に置くべきです。
「半年で登録者1万人」のような目標は、採用目的では筋が悪い指標です。yutoriが示した通り、採用で追うべきは登録者ではなく「エントリー数・面談化率・内定承諾・早期離職率」です。再生はあくまで入口であり、応募までの導線(採用ページへのクリック)を計測する設計が先にあるべきです。
3本ほど投稿して反応が薄く、更新が止まる——これが最も多い失敗です。YouTube採用は資産型で、効果が出るまで数か月かかります。最初から「型」と「連載」を設計し、無理なく回せる制作体制を組むことが、立ち上げ時点で最重要になります。

YouTube採用がうまくいかない最大の原因は、「1本の動画で認知も信頼も応募も全部とろうとする」ことです。動画は目的別に3種類へ役割分担するのが定石で、これは採用ファネルにそのまま対応します。
新しい候補者に見つけてもらうための動画です。ショート動画とSEO(検索される動画)が主役で、「◯◯職の1日」「年収のリアル」「面接で落ちる人の特徴」など、候補者が検索・スワイプしたくなるテーマを量産します。ここでは再生数・拡散を見て構いません。yutoriのショート量産がこの役割です。
会社との距離を縮め、「ここで働きたい」と思ってもらう動画です。社員1人への密着、仕事の葛藤、社長や上司の想いがこれにあたります。再生数は二の次で、見た人の志望度を上げることが目的です。yutoriの社長密着・社員密着がここに該当します。
メディア全体を一本の「木」に見立てると分かりやすくなります。検索で見つかる個別動画(葉)から入った候補者が、会社のコンセプト(幹)を知り、最後に経営や社員の想い(根)に触れて信頼する——この流れを設計するのがファン化です。
具体的な行動(エントリー)を促す動画です。選考の舞台裏、職種解説、候補者の不安に答えるQ&A、内定者の声などで、概要欄や動画内で採用ページへ明確に誘導します。再生数は気にせず、応募数だけを見ます。
この3つを混ぜず、認知(ショート)→ファン化(密着)→CV(選考密着・LP送客)の順に設計することが、「再生はされるのに応募が来ない」を防ぐ最大のポイントです。
「うちはアパレルのように華やかではない」という声は多いですが、地味さはむしろ武器になります。なぜなら、「見えない仕事の正体を解剖する密着」は競合がほとんどおらず、新規性が高いからです。
ここでも差別化のレバーは3つです。①対象特化(職種を1つに絞る)②形式差別化(密着ではなく候補者目線の体験入社リアリティにする)③垂直特化(特定の拠点やチームだけを連載する)。最低2つを掛け合わせれば、大手の横並びから抜け出せます。
なお「自社の商材や職種が検索されるか」「潜在層に届けるべきか」によって、ロング中心かショート中心かの最適解は変わります。検索ニーズが明確ならロング(SEO)優先、まだ知られていない職種・魅力ならショートで認知形成から始める、という判断を立ち上げ前に行うと、無駄打ちを減らせます。

YouTube採用を始めるとき、必ず直面するのが「自社で内製するか、運用代行に外注するか」です。結論から言えば、立ち上げ期は外部の知見を入れ、並行して社内に運用ノウハウを蓄える「ハイブリッド」が最も失敗しにくいです。
| 方法 | 費用感 | 特徴 |
|---|---|---|
| 完全内製 | 人件費+機材数十万円 | コストは抑えられるが、企画・撮影・編集・分析の専任体制とノウハウが必要 |
| 動画1本の制作外注 | 1本あたり数十万〜数百万円 | 単発で高品質。ただし戦略・継続運用は自社次第 |
| YouTube運用代行(月額) | 月額数十万円〜 | 戦略設計・企画・撮影・編集・分析まで伴走。継続的に資産化しやすい |
内製は現場のリアルな空気を撮れる・スピードが速い・コストを抑えられるのが強みです。一方で、企画力・撮影編集スキル・分析改善のノウハウが社内になければ、品質が安定せず更新も止まりがちです。「とりあえず社員が片手間で」では続きません。専任担当か、少なくとも企画と分析を担う中心人物を置けるかが分かれ目になります。
運用代行は戦略設計から制作・分析まで一気通貫で伴走してもらえるため、立ち上げの失敗確率を大きく下げられます。yutoriも制作・ディレクションを外部の制作会社に任せて品質を均質化しました。注意点は、丸投げすると社内にノウハウが残らないこと。将来の内製化を見据えるなら「伴走しながら社内に移管する」前提で組むのが理想です。
自社の体制・予算・スピード感に合わせて最適解は変わります。「立ち上げは運用代行で成果の型を作り、軌道に乗ったら内製化していく」という進め方なら、初速とノウハウ蓄積を両立できます。どちらが自社に合うか迷う場合は、専門家に体制・費用・KPI設計を一度整理してもらうのが近道です。

上場企業・大企業がYouTube採用に参入する際は、中小企業以上に「最初にリスク設計をしておく」ことが欠かせません。ここを軽視すると、一本の動画が開示問題や炎上に発展しかねません。
これらは制作を始めてから整えると手戻りが大きくなります。企画段階で社内の法務・IR・人事を巻き込んでおくことが、上場企業ならではの必須プロセスです。
ここまでを踏まえ、最初の一歩を具体化します。
立ち上げの設計(主役発掘・KPI・体制・リスク)でつまずくと、その後の数か月が無駄になります。最初の設計だけでも専門家と壁打ちしておくと、失敗確率を大きく下げられます。
A. 資産型のため、立ち上げから成果(エントリーの増加)が見え始めるまで一般に3〜6か月が目安です。yutoriの事例でも、単発のバズではなく、検索・関連動画・ショートからの流入が積み上がって成果につながっています。短期で結果を求めるなら、YouTube広告(採用広告)を併用する選択肢もあります。
A. あります。採用で見るべきは登録者数ではなく、採用ページへの送客とエントリー数です。yutoriも登録者は約2万人ですが、エントリーは2.3倍・倍率926倍を実現しています。登録者を目標にすると、採用に直結しない“バズ狙い”に逸れやすいので注意が必要です。
A. 全社員の顔出しは不要です。キャラの立つ数名を主役にする、手元・現場・モノづくりの過程を中心に撮る、ナレーションや字幕で構成するなど、出演範囲を絞っても成立します。出演者には必ず同意を取り、退職時の扱いも事前に決めておきます。
A. 制作を外注する場合は動画1本あたり数十万〜数百万円、運用代行は月額数十万円〜が一般的な目安です。内製なら人件費と機材費が中心になります。重要なのは「1本いくら」ではなく、エントリー1件あたりの獲得単価で他の採用チャネルと比較することです。
A. 認知(新規候補者との接点)を広げたい初期はショート、信頼を育てて応募につなげたい段階ではロングが中心になります。検索される職種・キーワードがあるならロング(SEO)から、まだ知られていない魅力ならショートから、と需要の有無で判断します。最終的には両方を役割分担させるのが理想です。
yutoriが採用エントリーを2.3倍にできたのは、立派な会社紹介を作ったからではありません。「結末の見えない人間ドラマ」を上場という権威の上に乗せ、登録者ではなくエントリーを追ったからです。
上場企業・大企業が真似るべきは「密着というフォーマット」そのものではなく、次の設計思想です。
自社の地味に見える現場こそ、まだ誰も解剖していない最大の新規性です。とはいえ、立ち上げの戦略設計・体制構築・継続運用には専門的なノウハウが必要です。「何から撮るか」「内製か運用代行か」「KPIをどう置くか」で迷うなら、まずは無料相談で自社に合った設計を整理することをおすすめします。
※本記事のyutoriに関する数値はvidiqの実数・公開情報・公式事例(PR TIMES等)に基づくもので、相関であり成果を保証するものではありません。再生数は公開時期やアルゴリズム等の影響を受けます。